【書評】ラクガキノート術

 森鴎外や正岡子規、夏目漱石。国語の教科書で文章が掲載されているような大作家ですが、掲載されている写真にラクガキをされる代表的な作家でもあります。鴎外や子規は間違いなく髪の毛を書き足されます(笑) 私もやった記憶があります。横向きの写真が有名だったりしますが、リーゼントにしてみたり、分け目を作ってみたり、まぁいろんなバージョンがあります。まぁ、ラクガキというのはワルガキの授業中のサボリの代名詞。教科書がラクガキだらけだと、当然大人には叱られる運命にあります。

 ですが、ラクガキというのは、実は記憶力を高める一つのツールとして結構有効ですし、以前から私はいろんな形で参考書や辞書に書き込みをするよう指導をしてきました。

 ラクガキではないものの、例えば辞書は、一度引いたものは蛍光ペンで色を塗り、2回目に同じものを引いてしまったら、普通のペンでアンダーラインを引き、3回目に同じ単語を引いたら、もういい加減覚えようという気になる… そんな話をします。これを1年でも繰り返すと、かなりボロボロで迫力のある辞書が出来上がっていきます。本来ならば単語集など渡さなくても、辞書でしっかり単語暗記が出来るようになるのです。

 色塗り・色分けは大推奨しています。何となくのイメージカラーで十分。辞書は蛍光ペンでカラフルになっていきます。私が受験生時代に使っていた辞書では、advantageという単語はピンク色で塗られています。mentionは緑、precludeは水色です。

 これは歴史年表でも同じことが言えて、鎌倉時代は何となく緑、平安はオレンジ、室町は茶色のイメージ。たまたま色鉛筆で塗り分けたイメージです。単語や言葉では印象づかないものも、色や形で印象づく場合が多く、鎌倉時代の出来事を何となく緑で書いたり、緑のイメージを持っておくと、それが何時代かと問われた際にはイメージで即答できるようになっていることが多いものです。

 ですから、ノートやテキストは、ばっちり汚してくれるのが正解なのです。色ペン、蛍光ペンはもちろんのこと、シールでデコったりしてもいいと思いますし、まさにラクガキをしてもいいと思います。むしろそれを「やれ、やれ」と生徒たちにはけしかけています。テキストがきれいなままなんて、「勉強していませんよ」というアピールにしかなりません。

 実は私は「絵心」というものをまったく持ち合わせてなく、本当に絵が下手です。授業中も描けるのは「棒人間」ばかり。こんな時に、ササッとかわいいイラストでも描けたらいいのになぁ…と思う場面も多数ありました。描ける人をうらやましいなぁと思うこともありました。

 そのくせ、センスだけは一人前で、ダサい作品を書いたり、可愛くない絵を描く人には結構厳しい評価を下したりします。こういうところが私の面倒くさいところ…(笑)

 そんな折に、マンガの描き方講座でもない、ノート術という視点のラクガキ推奨本の出版を知り、実はネット書店で予約までして購入したのがこの本です。これは実に使える本。面白いです。

 例えば、「5つの口、5つの目、4つの眉で100通りの表情が描ける」というのは目から鱗です。算数の場合の数の計算ですよ。5×5×4=100ですから、確かにそう。単純に、目と口と眉の表情でこれだけのバリエーションが出せるというのは、意外過ぎました。でも、確かにその通り。

 また、様々な体のパーツの描き方も一つ一つ解説されていて、なるほど!と思うことが多いものでした。体が描き方としては一番難しくて、ここが棒人間になってしまう一番大きな理由なのかもしれません。百歩譲って、正面からは描けるとしても、ちょっとナナメから見たらもう描けなくなってしまうし、書いてみたらバランスが悪すぎて、「こんな人間いないだろう?」なんて笑われたりしたら、もう絵を描くことを止めてしまいますよね。私もそんな一人だったんだろうと思います。

 授業中に暇つぶしのためにラクガキをしているのでは当然困ります。しかし、ノートを取ったり、学習の「印象付け」のためにラクガキをするのは、全くもってOKだと思います。

 「ノート術」より、私は「テキスト術」として、ラクガキをバッチリしてほしいと思います。ともすると無機質な教科書を、書き込みをして楽しいものにしたり印象深いものにするのには、ラクガキは一番効果的です。

 言葉から映像を「想像」し、更に「伝達」して、それを「再現」するというのは実に大変なことです。ある意味学生たちにはそれをやらせているわけで、それを意図的にやっているのならともかく、普通はやりやすいようにしてあげるものではないかと思います。楽しく、印象的に学習を進めていくには、言葉から映像を再現すると、長期に渡って忘れない知識として蓄積されていくことになります。

 学習は、無機質になればなるほど困難さを極めます。電話番語を何十、何百と覚えるのは苦痛ですし、とにかく覚えるスピードが上がらないと思いますが、ここに「ゴロ合わせ」のような多少の「意味」を投入してやると、印象づいて覚えるものです。知識事項に意味を持たせたり、印象づけるような行動はとても重要なことです。単に面白おかしくゴロ合わせを覚えるのではなく、イメージ化したものを「印象」の中に落とし込んでいくことが最終的には「長期記憶」の中に取り込まれた知識として役立ちます。

 私の古文の時間でも、生徒たちが「半蔀」とか「几帳」がどんなものかを知りたいときに、下手な絵を描いて見せます。生徒が笑ってしまっても描いた方が印象的です。それがもう少し上手なイラストとなっていれば、忘れませんよ。ラクガキ、しましょう!


【ラクガキノート術】
タムラカイ /枻出版社/1,404円

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