男には3人の敵がいるという。
であるから、常に男は臨戦態勢でいなければいけないのだろう。その緊張感が男の生き様であり、戦いの中に身を置く男の背中は、いつもいくばくかの哀愁と、女性を魅了してやまない力強さを持っている。
いつも敵は突然目の前に現れる。
いつ訪れるかも分からない戦いの時。それが男の人生というものだ。安穏とした時が何時までも続くわけではないのだ。
奴も突然現れた。不意に見上げると、物陰に潜んでいたのか、突如姿を現し、俺に戦いを挑んできた。いや、奴にとって姿を見られたのは本意ではなかったようだ。出来ることなら無益な戦いは避け、逃亡したかったのかもしれないが、残念ながら二人は出会ってしまった。
しばらくは見合っていた。二人の間に走る緊張感。視線を戦わせながら、お互いに空気を読みあっている。オレが不利だったのは、その場に妻がいたことだ。何としても妻は守ってやるしかない。たとえこの身が傷ついても、妻は守る。それが男というものだ。
奴は相当できると見えた。冷静にこちらの動きを伺い、無駄な動きをせず、時に不敵な笑いを浮かべているように探っている。悔しいかな、こちらの動きなど全て見切っているように思えた。いかん… これでは勝ち目が無い…
小さな武器を手にしたオレは、間合いを計った。一撃の勝負になる… 奴の実力を考慮すれば、一撃で致命傷を与えなければ勝ち目は無い。緊張の瞬間。援軍は来たらず。孤軍奮闘。また奴と対峙した場所の関係で、オレは飛び道具を手に入れることが出来なかった。しかし勝たねばならない。ここで勝たなければ、我々に明日は無いのだ…
オレは勝負に出た。
しかし、その時、緊張と一瞬の「逃げ」があったのだろう。オレの攻撃は完全に見切られた。空気の動きを読んでいるのだろう。オレの手が動いた瞬間に奴は目にもとまらぬ見事な体さばきでこの勝負から逃れた。しまった… 逃げられたか…
この後の勝負は神経線・消耗戦になった。見えない敵と戦うことになったのは、テロリストとの戦いを毅然と掲げたブッシュ大統領の如し。しかし、ある意味ゲリラとの戦いとも言える。いつ何時襲われるかは分からない。通常の兵士であれば神経が参ってしまうところだろう。
吉良上野介を探す赤穂の浪士たちのように、見えない敵を探す。考えられるところを全て探し切ったが、その敵は見えない場所でオレをあざ笑っているに違いない。悔しい限りだ。そして、奴を生き残らせれば、またいつ何時襲ってくるか分からない。
オレの執念の探索は続いた。
そしてついに、奴の姿を見つけた。恐ろしいほどに身を隠すのが上手い奴は、正に吉良の如く、追っ手が過ぎ去るのを目立たぬ場所で身を隠しして待っていた。少なくともそう思っていたに違いない。オレが偶然にも奴の姿を見つけたのは、まさに執念とでも言うべきものであったかもしれない。
奴にはついに戦いを挑まれ、一進一退の攻防を繰り広げた。ヤツはオレに飛び掛ってきたが、オレは身をかわし、ようやく手に入れた飛び道具を使い、ついに奴が身体を起こすことが出来ないところまで深い打撃を与えることに成功した。20分を超える長い戦いであったが、オレは今日も勝つことが出来た。
常に戦いだ。男は戦いの中にいてこそ優しくなれる。死闘を繰り広げた奴にも手を合わせやるのが礼儀というものだろう。安堵の表情を浮かべる妻。物騒な世の中だ、気をつけるんだぞ。
それにしても今年に入って2回目の戦い。
奴との戦いは常に恐ろしく、嫌なものだ。
奴。
そう、あいつだ。
あいつ。
カサカサ…
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