個別最適化の罠

近年、教育の世界でも大切にされる言葉の中に、「個別最適化」というものがあります。

「皆が皆と同じわけがなかろう」
という大前提のもと、少しの差異もきちんと取り上げて、その生徒個別の学習カリキュラムに基づいた学習指導をすることなどを指す場合が多いのですが、まぁ簡単に言えば、「一人一人に合った形で進める」ということだと言えるでしょう。

iPadなどのタブレットや、ノートPCなどがかなり普及してきたので、今は安価でそれらを準備していただけます。個別のカリキュラムを組むことも、インターネットやAIの普及に伴ってかなり簡単になってきており、そういう「お道具」を使えば、学校教育などの多人数においても「個別指導」が、さも「当然」のように出来るでしょうし、その必要性が語られる機会も増えてきました。

個別最適化
いい響きです(笑) 何より無駄がありません。他人の弱点につきあうこともありませんから、生徒自身の時間が有効に活用できます。実際に現場で生徒と接する講師たちも、また指導を依頼した親も、誰にも成果が出そうで、大変メリットのあることだと思います。

が!
やっぱり物事、現時点では裏表あるわけですし、ある面で上手くいっていれば、ある面では罠も存在するだろうと思います。

例えば、YouTubeを見ていると、オススメ動画・関連動画が最後に出てきます。これもまた、「個別最適化」の成果でしょう。このオススメ動画には、過去のその人の閲覧履歴やGoogleでの活動から、「おそらくあなたはこれに興味があるでしょう?」という表示がなされます。まぁ、そんなものを分析できちゃうGoogleもすごいなと思いますが、これこそが今世の中で行われている個別最適化の典型でしょうね。

しかし、この場合、裏返せば「自分の興味」の外側には行かないとも言えるのです。私の過去の履歴から分析をしているわけですから、過去に行動したことがないものは、そもそも分析データの中には入ってきていないわけです。例えば、自分以外の人間が多数行動したことがある「サンプル数の多い」活動については、もしかするとオススメに未知の行動が含まれてくることがあるのかもしれません。が、原則はやはり過去の行動に似たようなものが出て来ます。オススメ動画は確かに見やすいのですが、似たような傾向をずっと繰り返していることも多いものです。ゆえに飽きやすい。

この点で言えば、実はテレビの方がまだマシだったとも言えます。テレビは視聴者が「ただ見ているだけ」という受け身の媒体であるということをよく批判されます。「文字をあえて読む」という面倒な作業が加わる「読書」や「新聞を読む」などの行為に比べて、テレビはただ漫然と受け身の体制で時間がどんどん過ぎていくところが問題だと言われてきました。

ただ、テレビは自分で情報を選択したり、過去の自分の行動から最適な内容を見せてくれたりはしません。むしろ放送したい側が、放送したい内容を強制的に見させるというシステムになっていて、視聴者側はそれを「見る」「見ない」という選択で評価をするというのが流れになっています。ゆえに、自分の属性や興味の外側にあるものにも強制的に触れるチャンスを得る可能性があります

たとえば、バラエティ番組においても、「英語が喋れないタレントが何とか目的を達成する」企画は面白がって見るものの、「世界の祭りはどこが一番盛り上がるか」にはあまり興味がないかもしれません。しかし、一つの番組内であれば流して見てしまう可能性は高いでしょうね。

ところが、最初にそれほど興味がなかったものの、番組を見るうちに思いの外興味を持てるお祭りがあり、その祭りを見に海外へ出かけたいと思ったり、最終的には民俗学に興味が出て、民俗学が学べる大学への進学を志したり…なんてことがあるのかもしれません。そうなった場合、まさに「個別最適化」では得られない、「未知との遭遇」によって人生が変わるようなきっかけを手にしたことになるでしょう。

「個別最適化」が果たして良いのか?
教育の世界からの視点としては、決して良いことづくめではないし、子どもを小さくまとめてしまう可能性もあるという弱点もまた併存しているのだと思います。

物事は何でも盲信的にならず、必ずメリットデメリットが表裏一体で存在することを理解することが重要です。確かに個別最適化で得られるメリットは計り知れないものがありますが、それを最大限活用しながら、また現在の自分の「外側」に存在する物事にも積極的に出会える環境も大切にしておくことが何より重要だと思います。

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