希望難民御一行様

今では想像すらできないかもしれませんが、私はロック少年でした。

中学生の時にギターを手にして独学で弾き始め、高校でエレキギターを手にし、大学時代は徹底的にのめり込みました。髪を伸ばし(一番長いときは腰までありました)、革ジャン&ブラックジーンズで街を闊歩していましたから、地元でもそれなりに目立つ存在だったようです。

そんな私も髪を切る時が来て、一応就職をして、いつの間にか自分で仕事をするようになり、今じゃ見事なオッサンになっているわけですが、いまだに何かをしようとしているのは、「諦め」ないという懲りない性分であるからだろうと思います。要は「大人子ども」なんですね。だから、私が正しい大人であるかどうかは怪しいものです。

「大人になれよ」という言葉が大嫌いでした。「ガキじゃないんだからさ」というのも嫌いです。いつから、壮大な夢を語ったり、自分のやりたいことを追い求めたりすることを諦めることが「大人」になることだったりするのでしょうか。

しかし、大人は実に勝手なものだとも思っていました。「夢を持て」「大きなことを考えろ」「視野を広く持て」と散々言っておきながら、落としどころは、「そろそろ就職を考えろ」「いつまでも夢みたいなことを言っているな」「年齢を考えろ」というところ。つまり、乱暴に言えば「若い頃は夢を見ろ、大人になったら諦めろ」ということになります。

筆者はその欺瞞に満ちた矛盾にいち早く違和感を持ったのでしょう。結論として、筆者がテーマとして取り上げた「ピースボート」は「諦めの船」であると結論付けています。確かに、様々なタイプの人間が乗り込む世界一周クルーズ「ピースボート」の人間模様を観察すると、最終的には「大人になれよ」的な「諦め」が生まれるのだということなのでしょう。

筆者は、大人たちの勝手さに異論を呈してもいます。例えば、

『伏線を回収しきれずに終わった「20世紀少年」という漫画がある。ネタバレにはならないと思うが、そのラストシーンが音楽フェスティバルだったのが象徴的だ。「ともだち」のような全人格的なコミットメントを要求する宗教の時代が終わり、その場の熱狂でしか人々をつなげない祭りの時代に、僕たちは生きている。』

『何のヒントもなくフィールドに放り出され、「やればできる」と急かされる。ゲームではそういう作品のことを「クソゲー」と呼ぶ。僕たちが生きるこの社会には、「クソゲー」と呼ばれるゲームの要素がいくつも含まれている。チュートリアルが不十分で、ゴールが不明瞭。自由度が高そうに見えて、実は初期パラメーターに大きく依存する行動範囲。セーブもできないし、ライフは1回しかない。』

つまり、以前の学歴社会は、「若者たちを諦めさせる」働きを持ち、就職するということはイコール「若い頃の夢を諦める」ということであり、それが一定の効果をあげていたというのです。本書に登場する社会教育学者・荒川葉の言葉を借りれば、『デザイナーやカメラマンなど、実現可能性がほとんどないのに魅力的な職業を夢見る生徒は、結局受験競争の敗者となってフリーターやニートに甘んじることになる。だったら一元的な評価で人を判断する受験制度の方がまだマシ』ということになるのでしょう。

自分とは異質なものを見たくないし、受容も出来ないような弱弱しい「ヘタレ」な子が多い中、夢を追わせる「強い」教育をするのか、以前の学歴社会のように「諦める」「大人になる」ことを求める教育をするのか、そのどちらでもない今の中途半端な時代を筆者は「グニャグニャした時代」と感じているのではないのかなと思います。でも、それは、彼よりもかなり年上で、しかも自分の楽しいことだけを追い求めて仕事をしてきた私からすると、半分は納得し共感もできる反面、半分くらいは納得できない「ひ弱さ」を感じてしまいます。

何も努力しない変わらない素材のままの自分を認め合える関係を是とする世代、異質なものへの耐性が極端に低い世代、口先だけで行動出来ない世代、興味はあるが勉強はしない世代… なかなかパワフルに生きてきた(と思われる)オッサンには理解が出来ない部分もあります。「生きてて楽しい?」的なね。

ひとつ心強いのは、筆者にせよ、「『フクシマ』論」で出てきた開沼博氏にせよ、朝生で頭角を現した我が大学の後輩・荻上チキ氏にせよ、若き論客が意外なほど活躍し、世に出てきたということ。若い世代も捨てたものじゃないなと思います。それぞれオッサン達がかなわないほどの鋭い視点を持っているとも感じます。

本書は、筆者の卒論を原形をとどめないほどの加筆修正したものとされています。開沼氏のフクシマ論も同じ。

さて。お読みになって、皆さんはどう思われるでしょうか。私は、貧乏であろうが、学歴社会の敗者であろうが、自分のやりたいように生き、死んでいこうと覚悟しています。諦めるか、ツッパルかはそれぞれ。生き方を考えさせられる本でした。

【希望難民ご一行様 ピースボートと「承認の共同体」幻想】
古市憲寿/光文社新書/¥860

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