往生際の悪い奴

26 最近、滅多に小説を読まないのです。それは純粋に「時間がない」から。いや、小説を読む前に、「勉強」として読まねばならない本があったり、小説を読む時間を仕事に費やすべきではないか…という、ほとんど強迫観念みたいなものがあって、どこか小説は置き去りにされてきていました。
 
 最後に読んだのは「原発ホワイトアウト」だったか、「ジェノサイド」だったか。とにかく小説はしばらく読んでませんでいた。かといって買っていないわけでもないのです。読みたいという気持ちもあるのですが、精神的余裕がないとこういうものって読めません。
 
 本に関してはほぼ衝動的に買って、目の前に数十冊が積ん読になっているので、なぜこの本を買ったのか? どこに惹かれたのかは覚えていません。作家が気に入っているわけでもなく、タイトルに惹かれたのでもなく。でもただいつの間にか私の本棚に入っているので、何か気にして買ったのは間違い無いのです。
 
 が、最近の仕事疲れが、ふと私の手をこの小説に向けさせました。谷崎や川端といった高尚な文学ではなく、また渡辺淳一の失楽園のような艶やかさというものもないのですが、それがかえってリアリティを感じられる「新聞小説」といったところでしょうかね。読み始めてしまうと一気に…

 老いらくの恋というのがテーマで、若い女に人生を投げ出してしまう弁護士先生とその助手の物語なのですが、一歩間違うと我が業界にも当てはまるリアリティに少々背筋が凍ります。実際、学校の先生も教え子と結婚するケースというのは決して珍しくなくて、「それって昭和初期でしょ?」と思っていたのですが、つい最近、ある女子校の話を聞いたら、結構な数の「生徒と先生のカップル」ってのがいるらしく(もちろん結婚したりという話。現役じゃありません)、いまだにそんなことがあるんだなぁ…と思ったりして。

 そりゃ、教室に有村架純とか木村文乃なんかがいて、先生大好きって言われたら人生が狂ってしまう可能性もありますが(笑)、まぁ現実にはそんなことはないわけで、妻と愛犬との生活を幸せと感じながら順調にオッサンになっている私からすれば、少々こそばゆい場面も多々出てきます。ただ、男として理解できる部分もあります。ああ、確かに男ってこういう思考回路で出来てるよな…という理解。男性が読むと、なんだか自分の内面を抉り出されたような気分になる、なんとも「変な笑い」がでてくる場面が多々ありました。
 
 読破した後、帯にもある、

 「男はいくつになっても、女からの愛を諦めきれない」

というのは、本当に男の核心を突く鋭い一言だと思いました。ジジイになっても「モテたい」というのは誰しもあるんでしょうね。じゃなきゃ、お姉さんのいる飲み屋さんはあんなに流行らないわけで。

 また、登場する魔性の美女は、真面目なお嬢様として過ごしてきて、その彼女が、これまた帯にある通り、

「悪いことをすると心が軽くなる気がする」

というのも、最近とても分かります。真面目な子が随分と思い切ったことをしてしまうというケースを幾つも見ていると、実は「これなんだろうな…」と思うことが多々有ります。「親が思っているほど、先生が期待しているほど私は真面目じゃない!」 そんな反発がかえって子どもを脱線させたり、あるいは無気力にしたり、そんなことがあるんだろうなぁと。まぁ、大幅に脱線してきた私が言うのもなんですが、アウトロー気取って破滅的な生活をしていた若かりし頃、「悪いことをしていると心が軽くなる」という気分を、私も確かに感じていたような気がします。

 奇妙な三角関係の中で、シンパシーさえも感じ得ない価値観が出てきたり、結構露骨な性描写があったりと、あくまで新聞小説の域を出ないなぁとは感じましたが、それをも上回る何とも言えない「オヤジの恋の切なさ」は、一体何なのでしょうね、これは…

 最後にちゃんと伏線を回収していく、「オチ」がついているのも、私は「収まった」感があってホッとしました。

「往生際の悪い奴」島田雅彦/日本経済新聞社

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