突破する力

01281554_4d4268406cecf 東京都というのは、都知事・石原慎太郎、副都知事・猪瀬直樹という二人の「作家」で行政が行われています。ですから、言葉に関するプロジェクトが立ち上げられ、リテラシー教育も積極的に進められています。これは大変素晴らしいことだと思います。教育現場でその効果がひしひしと感じられるかどうかは別問題ですが、やろうとしていることは素晴らしいですね。

 猪瀬さんは、以前は高速道路の民営化に尽力していました。今、ネクスコとかいう高速道路会社に分割民営化し、道路族と言われる国会議員たちを駆逐しようとしたのも彼。副都知事になってから有名になったのは、東京メトロと都営地下鉄の一元化ですね。手始めに半蔵門線と新宿線の九段下駅の壁を取っ払うということが実現しつつありますが、彼が関わる全ての行政について感じられるのは、「とにかくやることが遅い!」ということ。民間では全く考えられないほどの仕事の遅さ。スピード感のなさ。異常ですね。

 地下鉄の駅間でメールやウェブが途切れるのが困る…という課題にも、ソフトバンクの孫氏とすぐ話し合い、すぐに実現に向けて動き出しています。そのおかげなのかどうかはわかりませんが、千代田線も新御茶ノ水から根津まで、一度も3G回線が切れることなく携帯をいじれるようになりました。

 そんなことがきっかけで、「地下鉄は誰のものか」(ちくま新書)、「言葉の力」(中公新書ラクレ)などを読んでみました。フィクションを書く「作家」としての力量は分かりませんし、私ごときが批評するものでもないでしょうが、ノンフィクション作家としては、私はかなり好きになりましたし、共感も尊敬もできる人物になりつつあります。

 それは、彼が言っていることを、表現は違えど私も生徒たちに言い続けてきたからです。
例えば彼は、「孤独を友として仕事と向き合った時間は、決して自分を裏切らない」と言います。孤独を友とすることが重要なんです

 今の若者は、孤独を異常に怖がります。常にだれかとツルんでいないと行動が出来ず、常に友達からのリアクションを求め、一人で行動すると「変な奴」だと思うようです。

 典型的なのは「便所飯」 ご存じですか? 今の大学生は、一人で学食でご飯を食べていると、「友達のいない変な奴」だと思われるのではないかと思い、一人便所の個室で弁当を広げるのだそうです。便所ですよ、便所!? 我々からすれば???ですが、今は特段珍しいことでもないようです。

 しかし、一人にならないから自分を見つめることもできなければ、真剣勝負で自分を磨くことも出来ない、要は「使えないくせに口ばっかりは立派」な若者が増えているように感じます。一人になってみろよと、私は10年以上前から言い続けてきました。

 「ギリギリまで自分を追い込めば仕事力が磨かれて、それが閉塞状況を打ち破る武器になる」というのも、本当でしょう。

 かく言う私も、29歳まではそんな甘ったるい若者でした。バンド崩れの塾講師崩れ。散々留年して学生時代を謳歌し、自堕落な生活をした後、一度は就職するもすぐ転職。30までは音楽だ…などとマトモに働かず、プラプラ。しかし、ひょんなことから塾を委託され、経営など知らずにやったものだから窮地に陥り、地獄の半年を過ごし、多額の借金と責任を負う羽目になりました。

 そんな窮地に陥った時、本当に自分と向き合いました。私は本当の「一人」になりました。

 当時は悲壮感に満ち、必死でした。よくやるよ…と思っていた友人達には「冷たい奴だ」と思ったこともありますが、今になって思えば、あの時一人にならなかったら覚悟は決まらなかったでしょう。結局友人たちに助けられながら10年以上塾をやることになるのですが、その塾を解散して東京に来る時も、「覚悟」の決め方、そして「一人で突破する」力は持ち合わせていたように思います。

 一人になって初めて、仕事に真剣さが増します。誰も助けてはくれない、自分で何とかしなければいけない、そう思ったら本当に「勉強」し始めます。自分に投資をするようになります。時間を大切に使うようになります。

 家族のために働くとか、そういう次元ではなく、己が身を立てるために仕事と向き合う際には、「一人になる」ことはとても重要です。確かに怖いのです。自分を誤魔化すことはできませんし、自分なのに自分のことが分からないという物凄い衝撃がありますから、自分と向き合うというのはとても怖いものです。

 しかし、これを乗り越えて初めて「イッチョマエ」なのでしょう。特に「伸るか反るか」の「経営者」などは、自分と向き合えなければ「倒産」が待っているだけなのかもしれません。

 大学生、高校生、若者のみならず、是非皆さんに読んでほしい1冊。
 そうだよな、いかんいかん忘れてた、もう一度頑張ろう… 必ずそういう部分が出てきます。必ず。私はこの本のおかげで、元気が出ました。もう少し頑張ってみるか。

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