目的と手段

 様々な場面で目的と手段を取り違えている人はとても多い気がします。そもそも、何かものごとを為そうとする際、果たすべきは「目的」であって、その目的を果たすために選び、実行するのが「手段」です。しかし、どうも見ていると、「手段」自体が「目的」になってしまっている人を様々な場面で見かけます。

 例えば、「来週テストをするから勉強して来なさいね」と指示をしますと、「テストに合格する」という目的のために勉強をしてくる子がいます。確かに短期的な目標として「テストに合格する」を掲げてくれるのは結構なのですが、何のために「来週テストがある」のかをすっかり忘れている場合があります。その知識を入試まで、また一生身に着けて欲しいからこそ、区切りとして、また短期目標として「来週テストある」であって、それ自体は、自分の学力を上げるため、使える知識を増やすための「手段」でしかありません。ですから、テストに合格したら「終わり」ではないのですが、見ていると「終わり」になっているケースが多々あります。

 また、ものを覚える「手段」についても同じで、目の前のテストに合格することだけが目的化してしまうと、その言葉の意味を理解することなどどうでもよくなってしまい、意味も読みも分からなくても強引に、ごり押しで覚えてくる子がいます。つい先日も歴史の小テストで「源頼朝」と漢字で書いて丸をもらっていた子に、「何て読むの?」と聞くと、ビックリするような困った顔をして、しばらく黙り、ついに口を開いてこう答えました。

「すがわらのみちざね」

 どの字を「すが」と読み、どの字を「わら」と読むの? そうやって読んでいくと、字、足りなくなるよね?(笑) これこそ、目的と手段を取り違えた勉強の典型です。字面で覚えたり、記号として暗記したりすることには、何の意味もありません。いや、その勉強の意味はたった一つ。「目の前のテストに合格する」ということだけです。違うテストになったら、聞き方を変えられたら、全く答えられないということになります。実際、その悪循環から抜け出せない子は何人も見かけます。私達もそれを指摘し、必死で改善させようとしている子がいます。しかし、なかなか分かってもらえないのも事実です。

 これは、そもそも学校も同じような悪循環・スパイラルに陥っている面が見られます。私は東京大学に何人合格させたい…というような学校があまり好きではありません。目標を持って前進することはいいことだとは思いますが、この手の目標は果たして適切なのか、ちょっと疑問に思います。受験や進学先というものは、人生上、あくまで「手段」であって、「目的」ではありません。「受験戦争」と呼ばれた我々の時代、いざ受験が終わって大学生活を送り始め、振り返ってみて、「あれは一体何だったのだろう?」と思うこともあります。

 自分の人生や自分のやりたいことを為すためにその学歴が必要だったり、その学校での学びが必要なのであれば、東大なり早慶なりに行けばいいわけですが、無目的に勉強して、行けば何とかなると思うのは間違いです。もちろんたかだか18歳の少年少女が人生を達観することはできませんから、ひとまず「勉強」という選択は「アリ」だと私も思います。しかし、その受験自体が目的になり、目的を達成したら終わり、もしくは「合格したんだから偉いんだ」などと勘違いする人間はどうかしています。受かったら、そこからがスタートじゃないですかね。

 ところが、この手段に振り回されている受験生も、そして学校も数多く見られます。大学に行かせることが目的だと言い切る高校は、どうなんでしょう? 私はちょっと私は躊躇してしまうのですが…
 塾でありながら、桜学舎には「〇〇高校何名」「××大学何名」などという合格目標はありません。この部分をはき違えた、勘違いした塾にはならないよう細心の注意を払っています。私達の目的は、「学習の本質を理解してもらうこと」です。桜学舎でじっくり勉強し、理解し、知識を身に着けていった結果として「学力向上」「志望校合格」という結果が出てくることが重要なのです。

 「こことここを掛けておけば答えが出る」「こう聞かれたら、こう答えろ」「この記号を丸にしておけ」的な、本質とはかけ離れた「テクニック」は、あくまで目先の「合格」だけが目的であり、その後には何の役にも立たない不毛な勉強です。こういうことが「効率のいい勉強」だと思っている人こそが、平気で「二次方程式など何の役にも立たないから勉強しても意味が無い」などと言い出すのです。

目的と手段をはき違えないこと。とても重要なことなんだと思います。

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